「岸・安倍家3代と旧統一教会」は60年間のお付き合い
安倍晋三、晋太郎、岸信介
「岸・安倍家3代と旧統一教会」
60年の知られざる関係配信
2021年9月12日、安倍晋三氏は旧統一教会系の「天宙平和連合(UPF)」の集会にビデオメッセージを寄せていた
「家庭を壊した団体を日本に招いたのが岸氏で、その孫の安倍氏を狙った」──安倍晋三・元首相を銃撃した山上徹也・容疑者の新たな供述が報じられている。
山上容疑者は事件の動機について、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の名前を挙げて「母親が統一教会の信者で、多額の献金をして破産した」「安倍氏が団体とつながりがあると思って狙った」などと供述しており、山上容疑者の自宅から押収されたノートには、同教団に対する恨みが書き連ねてあったとも報じられている。 たとえ山上容疑者が旧統一教会に対して恨みを抱いていたとしても、銃撃は許されざる犯罪だ。正当化などできるはずがないし、ましてや犯人に同情の余地などない。 だが、それとは別に、この教団が古くから日本の政界に深い関わりをもってきたのは歴史的事実である。 安倍氏の祖父・岸信介元首相、父の安倍晋太郎元外相も無縁ではなかった。この悲惨な事件の背景を検証するために、なぜ、山上容疑者が「安倍氏が団体とつながりがあると思って」という認識を持つに至ったのか、岸─安倍家と旧統一教会の歴史的かかわりを辿っておきたい。 教団のホームページによると、旧統一教会は文鮮明・総裁が1954年に韓国で創立、日本に進出したのは1959年だ。当時の首相が岸信介氏だった。旧統一教会の問題について長年取材し、国会でも取り上げてきたジャーナリストで前参院議員の有田芳生氏が語る。 「その当時、統一教会の本部が渋谷にあり、隣が岸氏の自宅でした。岸氏は隣の統一教会本部で講演を行なうなど、関係は深いものがありました」 世界平和統一家庭連合日本教会会長の田中富広氏も、事件を受けて開いた記者会見(7月11日)で、教団と岸氏の関係について「創設者の文鮮明総裁を中心とする平和運動に強い理解を深めてくださった」と語っている。 旧統一教会は1968年に反共産主義を掲げる政治活動団体「国際勝共連合」を設立し、政界との結びつきをより強めていく。 「勝共連合は文鮮明総裁と、日本側では政財界のフィクサーと呼ばれた児玉誉士夫氏、日本船舶振興会会長の笹川良一氏が富士五湖の本栖湖に集まって反共運動を行なう団体の設立を決めて発足した。そして統一教会・勝共連合は岸氏との関係から、娘婿の安倍晋太郎氏とも関係を築き、1980年代後半にはその晋太郎氏を総理にしようという活動を始めたわけです。 目的は、1984年に創立者の文総裁が米国で脱税による有罪判決を受けたため、入国管理法の規定によって日本に入国できなくなった。そこで晋太郎氏を総理にすることで、日本への入国を認めさせようとしたわけです。そうした経緯から岸─安倍家と統一教会の因縁は深い」(有田氏) こうして岸家と安倍家に食い込んでいった。
名簿に100人以上の議員
もっとも、旧統一教会が接近した政治家は岸氏や晋太郎氏だけではない。入信させて高額なお布施をとる同教団の「霊感商法」がしばしば社会問題化した1980年代から1990年代にかけて、旧統一教会・勝共連合は選挙運動を通じて自民党を中心に与野党の多くの議員に食い込み、政界に強い影響力を持った。 当時、本誌・週刊ポストは旧統一教会の政界工作を再三にわたって報じたが、自民党有力議員の秘書は政界への浸透ぶりをこう証言していた。 「統一教会の会員は最初は選挙ボランティアで入ってくる。選挙活動は熱心だし、手弁当で無報酬、そのうえ支持者名簿まで提供してくれる有り難い存在。そして議員に活動ぶりを認められると、給料はいらないから秘書にしてくださいと言ってくる。私設、公設含めて永田町には多くの統一教会の会員の秘書がいます」 勝共連合が当時作成したとされる自民党内の「勝共推進議員」名簿には、100人以上の議員の名前があった。勝共連合が「協力者」とみていた議員たちだ。 その政界への影響力を垣間見せたのが、宮澤喜一政権下の1992年、日本に入国できないはずの文総裁が、「日本の議員連盟との意見交換」という名目で、法務大臣の特別許可を得て入国したことだった。文氏は“自民党のドン”と呼ばれた金丸信・自民党副総裁とも会談し、文氏の入国問題は、「金丸氏から政府に圧力があった」と報じられて国会で問題化した。 「しかし、1990年代に入ってから、霊感商法や合同結婚式への批判が強まり、統一教会の政界との関係は次第に薄くなっていった」(有田氏) ただし、1990年代後半にも文氏は日本に入国しようとしたことがある。法務大臣経験者がこう振り返る。 「当時の野党の有力議員をはじめ、何人もの議員から文氏の入国を認めてほしいという働きかけを受けたが断わった」 政界に隠然たるパイプがあったことを窺わせる話だ。
ビデオメッセージ
一方、1993年の総選挙で初当選した3代目の安倍晋三氏は、祖父や父と違って、旧統一教会とは距離を置いていたという。それというのも、「反共」を掲げていた文総裁が1991年に突然北朝鮮を訪問、当時の金日成主席と会談して密接な関係を結んだからだ。 拉致問題で北朝鮮に厳しい姿勢を取ってきた安倍氏は、そうした旧統一教会と北朝鮮との関係を警戒していたようだ。 しかしその後、安倍氏が昨年9月12日、旧統一教会系の「天宙平和連合(UPF)」の集会に、こんなビデオメッセージを寄せていることを本誌は報じている(2021年9月27日発売号)。 〈今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します〉 韓鶴子氏は統一教会創立者である文氏の妻で、世界平和統一家庭連合の現総裁。UPFは韓氏が2005年にニューヨークで創設したNPOだ。ちなみに安倍氏の前には米国のトランプ前大統領もスピーチをしていた。 安倍氏が旧統一教会と北朝鮮の関係を警戒しつつも、歴史的経緯の中で祖父の岸氏、父の晋太郎氏から続く旧統一教会との関係を完全には断ち切れていなかったことを物語る。そして、その動画を見た容疑者は、犯行に突き進んだという。 だが、そうした岸─安倍家と旧統一教会の歴史的関係を踏まえて考えても、「家庭を壊した団体を日本に招いたのが岸氏で、その孫の安倍氏を狙った」という容疑者の認識は筋違いも甚だしく、事件が犯人の誤った動機による悲劇だったことを改めて思い知らされる。 ※週刊ポスト2022年7月29日号
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