| ・世界保健機関(WHO)が新たに更新すたファクトシート「砂糖とう蝕」で明かされた世界的な公衆衛生上の課題とは?
・「遊離糖」に対しWHOが強く推奨する摂取基準とは? |
はじめに
8月14日、世界保健機関(WHO)は新たなファクトシート「砂糖とう蝕」を更新した1)。
歯科医療従事者にとっては既知の事実も多いが、世界的な公衆衛生上の課題として、その現状やリスク要因、そして今後の対策が改めて示されている。
今回の記事では、グローバルな視点からの「砂糖とう蝕」ファクトシートの要点を確認しておきたい。
1)Sugars and dental caries(WHO)
う蝕は依然として「世界でもっとも蔓延している非感染性疾患」
今回のファクトシートで、WHOはう蝕が依然として世界でもっとも一般的な非感染性疾患(NCD)であり、約25億人が罹患しているという事実を提示した。これは、予防可能であるにも関わらず、痛みや機能制限、QOLの低下を引き起こす深刻な健康問題であると警鐘を鳴らしている。
今回のファクトシートで、特に注目すべきポイントは以下の通りである。
・永久歯のう蝕罹患者:20億人
・乳歯のう蝕罹患者:5億1,000万人
これらの数字は、う蝕が小児期から成人期まで、生涯にわたる課題であることを明確に示している。
やはり最大の元凶は「遊離糖」
う蝕のもっとも一般的な危険因子は、食品や飲料に含まれる「遊離糖」の摂取であることはいうまでもなく、WHOは、生涯を通じてう蝕リスクを最小限に抑えるため、以下の摂取基準を改めて強く推奨している。
・遊離糖の摂取量を、総エネルギー摂取量の10%未満に制限する
・理想的には5%未満とすることが望ましい
・2歳未満の幼児には、砂糖入り飲料を一切与えない

求められる公衆衛生的アプローチは?
また、WHOは、個人の意識変革だけでなく、社会全体でのアプローチの重要性を強調している。その具体的な介入策として、砂糖入り飲料(SSB)への課税といった財政政策を「費用対効果の高い」手段として推奨している。
加えて、う蝕が社会経済的地位と強く相関し、貧困層や社会的弱者に不均衡な影響を与えている「健康格差」の問題であることも指摘。治療へのアクセス格差が、未治療う蝕の放置や抜歯に繋がり、さらなる経済的負担を生むという負のスパイラルに言及している。
2019年には、口腔疾患への直接支出が世界で3,870億米ドル、生産性の損失が3,230億米ドルに上ったとの試算も示された。
WHOは、2023年に策定された「世界口腔保健行動計画2023-2030」などを通じ、今後もNCD対策の重要な柱として口腔保健を推進していく方針だ。これには、プライマリヘルスケアの現場で提供可能な、フッ化物局所応用や低侵襲修復治療の普及、そして各国の国民皆保険(UHC)パッケージへ口腔保健サービスを統合することが含まれる。
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今回のファクトシート更新は、う蝕予防におけるシュガーコントロールの重要性を国際的な共通認識として再確認するものであると考える。
歯科医療従事者として、日々の臨床における患者指導はもとより、より広い視野で公衆衛生活動に関与していく必要性を改めて認識する機会となるだろう。

