支払基金による違法な減点査定を覆し、勝訴を勝ち取った「こひなた眼科」(東京都文京区)。しかし、藤巻拓郎院長らが対峙している相手は、支払基金だけではなかった。Vol.3では、眼科の関係者から受けたという圧力や、医療界に見られる「忖度請求」の実態に迫る。さらに、敗訴後もなお初診料の算定を拒み続ける支払基金の対応や、医療界へのメッセージなども伺った(2026年8月6日にインタビュー。全2回の2回目)。

訴訟関連資料のファイル
――こひなた眼科の訴えに対し、関係団体などからの支援はなかったのでしょうか。
藤巻拓郎院長(以下、院長):
提訴の前後、関係団体に相談し、見つけた証拠も全て送って協力を求めました。しかし、そのまま突き返され「この件は扱えない」と拒絶されたのです。
それどころか、団体の元幹部からは「コンタクトレンズの件で騒ぐな」「事実上の不利益を受けかねない。除名するぞ」と、あからさまな圧力をかけられました。
――そのような対応を受けたのは、なぜだと考えますか。
藤巻栄子事務長(以下、事務長):
背景には、コンタクトレンズ(contact lenses)販売店に併設された眼科(いわゆるCL診療所)を弱体化させたいという、関係者の力学があります。かつてCL診療所が、コンタクトの定期処方のたびに初診料を算定して医療費を圧迫していた時代がありました。それを問題視して厚労省へ働きかけて作られたとされるのが、現在の厳しいコンタクトレンズ検査料のルールです。
一部の関係団体幹部らが、このルールを支払基金に違法に拡大解釈させて悪用し、「一度でもコンタクトを出したら永遠に再診だ」と一般の眼科にまでペナルティを科すことで、大都市圏でより強烈に牽制しようとしているのでしょう。
――他の眼科はどう対応しているのですか。
院長:
支払基金の理不尽な減点を逃れるために、コンタクト目的の患者が来てもあえてコンタクトレンズ検査料を算定せず、別の一般検査として処理するという、支払基金の「不払不正」に対抗するための「不正請求」も見られます。
あるいは、最初から初診料を諦めて過小請求する「忖度再診」をするかです。正直に、正しい点数を請求した者がペナルティを受けて馬鹿を見るのは、おかしい。
事務長:
例えば、ある産婦人科のクリニックから寄せられた情報ですが、アレルギー性の病気では、カルテに「アレルギー」と一度書いたら次回以降は永遠に再診にされてしまう地域もあるとのことです。そのため、医師は査定を恐れて「急性~」と偽りの病名を書いたりするケースもあると言います。支払基金の「不払不正」に対抗するため、医療現場のカルテやレセプトの書き方や倫理観までが歪められているのです。
――クリニック単独で訴訟することの怖さはなかったのですか。
院長:
医師は法律の素人ですから、やはり審査ハラスメントが怖くて言い出せないのが現実です。実際に、不当な査定に対して抗議した他県の先生からは「嫌がらせのような査定を受けた」「何度も文句を言うなら、指導監査の対象にするぞと脅された」という話も聞いていました。
事務長:
私たちの場合は、点数表や過去の通知などを徹底的に読み込み、相手がどれだけ法的に間違った解釈をしているかを完全に把握していました。「こちらには確固たる根拠があり、相手がおかしなことを言っていると明確に反論できるのだから、全然怖くない。監査を呼ぶならどうぞ」という心情でした。
――7月に勝訴判決が確定した後、支払基金の対応に変化は。
院長:
驚くべきことに、判決が確定してから2週間後に当院に届いた6月診療分の増減点通知書を見ても、これまでと全く同じようにコンタクト歴のある患者の初診料が再診料へと減点されていました。支払基金は判決を全く省みず、相変わらず減点理由すら書かずに違法な査定を続けているのです。支払基金は、医師や法律、ひいては司法の判断をも舐めきっていると言わざるを得ません。

――勝訴を受けて支払基金を刑事告発したのはなぜでしょうか。
事務長:
私たちが調べたところ、支払基金はどれだけ減点査定できたかに応じて、保険者から「パフォーマンスフィー」(成果報酬)を受け取っている疑いがあります。
彼らは、正しいルールを知りながら意図的に文言を読み飛ばし、不当に減点し続けています。医療機関に損害を与えながら自分たちの手柄にしているのであれば、それは詐欺、あるいは背任です。法律を破ってまで医療機関の財布に手を突っ込むような審査が許されていいはずがありません。
――最後に、全国の医療従事者へメッセージをお願いします。
事務長:
この判決は「たった2569円の問題」では決してありません。「医学的に初診と言える場合は、原則通り初診料が取れる」という大前提を裁判所が認めたものです。これは、理不尽な査定に苦しむ他科の先生方にとっても、今後の反論に使える大きな武器、規範になります。
院長:
厚労省は支払基金を監督する立場にありながら、「審査の具体的な内容には関知しない」と及び腰です。しかし、行政から委託されただけの審査機関が、独自にルールを書き換えて暴走していいはずがありません。
私たちは、診療報酬の違法な不払いを徹底捜査するよう求める署名活動を始めました(『診療報酬の「違法な不払い」を、検察は徹底捜査してください』)。日本の社会は長いものに巻かれがちですが、理不尽なことには泣き寝入りせず、「不正は不正。間違っているものは間違っている」と声を上げていく。それが、日本の国民皆保険制度と医療現場を守る第一歩になると信じています。
連載「眼科クリニックが支払基金に勝訴」
Vol.1 過去のコンタクト処方歴で初診料が永遠に算定不可?
Vol.2 支払基金側の「意味がない文言は無視」との主張は許しがたい
Vol.3 支払基金を刑事告発、「医療費削減至上主義」に警鐘
Vol.4 レセプト査定の地域差「差異はあるが不合理ではない」と主張 【9月11日公開予定】



