L’homme n’est qu’un roseau, le plus faible de la nature, mais c’est un roseau pensant.
L’homme n’est qu’un roseau
冒頭の「L’homme n’est qu’un roseau」については、文法編の「否定文」のページの「ne… que ~」の項目で詳しく解説しましたので、そちらをご覧ください。
「人間は一本の葦(あし)でしかない」
「人間は一本の葦にすぎない」
「人間は一本の葦にほかならない」
のいずれかの訳になります。
le plus faible de la nature
その後ろの「le plus faible de la nature」について見てみましょう。
「le plus」は最上級の表現です。「faible」が形容詞「弱い」なので、「le plus faible」で「最も弱い」。その後ろの「de」は、最上級と一緒に使う場合は「~の中で」という意味です。「nature」は「自然」。つなげると、「自然の中で最も弱い」となります。
さて、これはこの文の前後に、どのようにしてつながるでしょうか。
となっていれば、「自然の中で最も弱い葦」となります。
しかし、「le plus…」の前にコンマがあり、なおかつ「roseau」の前に定冠詞 le ではなく不定冠詞 un がついているという 2 つの理由によって、「le plus…」を「roseau」に掛けることには無理があります。
また意味的にも、前に掛けて「自然の中で最も弱い葦」とすると、葦の中にも強い(丈夫な)葦と弱い葦があることになり、内容的におかしくなります。
(ここでは、自然界には竹のような強くて丈夫な植物もあれば、折れやすい弱い植物もあり、色々な種類の植物の中で最も弱いものは葦である、という認識のもとに、人間を葦に喩えているわけです)
実は、この「le plus faible de la nature」の le は「最上級を作る」働きと、「le + 形容詞」で「~なこと・~なもの」として「形容詞を名詞化する」働きとを兼ねていると考えられます。つまり、最上級の名詞化(最も~なもの)です。
そして、コンマを挟んで「un roseau」と「le plus faible de la nature」が同格になっている(あるいは「un roseau」を「le plus faible de la nature」によって言い換えている)と解釈することができます。
訳は「一本の葦、すなわち自然の中で最も弱いもの」となります。
Il ne faut pas que l’univers entier s’arme pour l’écraser
「Il ne faut pas ~」は「~してはならない」という禁止の意味になるのが普通ですが、稀に「~する必要はない」という意味になることもあります(ある程度詳しい辞書なら、不定形 falloir の項目を隅々まで目を通せば載っています)。
基本的には「Il ne faut pas ~」は「~してはならない」の意味に取り、どうしても「~する必要はない」という意味に取らないと変だ、という場合にのみ、その意味に取ればよいでしょう。ここでは、その稀な「~する必要はない」の意味です。
「Il faut que」の後ろの動詞は接続法になります(否定の「ne… pas」が入っても同様)。ここでいうと「arme」が接続法です。ただし、第1群動詞の場合は、1~3人称単数と3人称複数の接続法現在は直説法現在とまったく同じ形になりますから、形の上では直説法現在と見わけがつきません。
「univers(宇宙)」はもともと s で終わる男性名詞。「entier」は形容詞で「~全体」。
「arme」の不定詞 armer(武装させる)は他動詞で、その直接目的が再帰代名詞「s’」になっているため、「自らを武装させる」→「武装する」となります。
前置詞「pour」は、後ろに動詞の不定詞がくると「~するために」という意味。「écraser」は他動詞で「押しつぶす」、その直接目的が「l’」(人称代名詞の直接目的3人称単数)です。 le も la も母音の前では「l’」になりますが、ここでは後ろに出てくる「le tuer」の「le」と同じものを指すと思われるため、男性単数のものを指します。前に出てきた男性単数というと、「L’homme(人間)」と「un roseau(葦)」(および「le plus faible(最も弱いもの)」も一応男性単数)がありますが、どれも内容的に同じものを指すため、「L’homme(人間)」を指すとしておきましょう。
ここまでで「人間を押し潰すためには宇宙全体が武装する必要はない」となります。
Mais quand l’univers l’écraserait, l’homme serait encore plus noble que ce qui le tue puisqu’il sait qu’il meurt et l’avantage que l’univers a sur lui, l’univers n’en sait rien.
この文は、大きく見ると「puisqu’」の前までで意味的に切れます。
Mais quand l’univers l’écraserait, l’homme serait encore plus noble que ce qui le tue
後半に移ると、「serait」は être の条件法現在(3人称単数)。「encore」は比較級と一緒に用いて「さらに、いっそう」。「plus 形容詞 que ~」で「~よりも〔形容詞〕」。
そのため、「noble」はここでは「貴族」という名詞ではなく、「高貴な」という形容詞です。 「ce」は先行詞になると「~なこと・もの」という意味になります。「qui」は関係代名詞で、 「ce qui」で英語の what に相当します。
この部分を文の要素に分けると、「ce」が小さな主語(S)、「le(彼を)」が小さな直接目的(OD)、「tue(殺す)」が小さな動詞(V)です。
以上で、「しかし、たとえ宇宙が人間を押し潰したとしても、人間は人間を殺すものよりも遥かに高貴なことだろう」となります。
puisqu’il sait qu’il meurt et l’avantage que l’univers a sur lui, l’univers n’en sait rien
「et」以下に移ると、「avantage(優位性)」は英語の advantage と同じ意味で、 -age で終わるため男性名詞。「avantage sur ~」で「~に対する優位性」となります。
「que」は関係代名詞で、「que」の前から「lui」の後ろまでがカッコに入ります(関係詞節になります)。細かく見ると、「l’univers」が主語(S)、「a」は(ここでは助動詞ではなく)他動詞 avoir (持っている)の現在(3人称単数)、そしてこの他動詞 avoir の直接目的(OD)が先行詞となっている「l’avantage」です。
つまり、この部分は次の文がベースとなっています。
L’univers a l’avantage sur lui. (宇宙は人間に対して優位性を持っている)
「lui」は「人間」を指し、前置詞の後ろなので強勢形になっています。
さて、この「l’avantage que l’univers a sur lui (宇宙が人間に対して持っている優位性)」は、どのようにして前後につながっているのでしょうか。
さて、ここは遊離構文になっています。主節は「l’univers n’en sait rien」で、ここから「l’avantage que l’univers a sur lui」が「遊離」して文頭に飛び出した形になっています。そして、この遊離した部分を、主節の中の代名詞(中性代名詞) en で受け直しているわけです。
この en は「de + 物」に代わる en で、英語の of it に相当します。この部分を en を使わずに(そして遊離構文を使わずに)書き換えると、次のようになります。
l’univers ne sait rien de l’avantage que l’univers a sur lui
(宇宙は、宇宙が人間に対して持っている優位性について何も知らない)
この時の de は「~について」の意味。
この文の「l’avantage que l’univers a sur lui」が遊離して前に出てきたため、それを代名詞に置き換える場合は、前に de があるため、「de + 前に出てきた物」が en に置き換わって、動詞(sait)の前に出たわけです。
中性代名詞 en は、しばしばこのように savoir が「ne… rien」と組み合わさった場合に入り込みやすい言葉です。例えば、
Je ne sais rien. (私は何も知らない)
だと、まったく何も知らないわけですが、中性代名詞 en が入ると、「それについては」という風に限定されます。
「consiste」は前置詞 en か dans とセットで
「~で構成される」(英語の consist of )
「~に存する」(英語の consist in )
のいずれかの意味になります。「consiste à + inf. (~することにある)」という意味もありますが、ここでは直接は関係ありません。
「Il faut + 不定詞」という表現では意味上の主語は明示されませんが、再帰代名詞が「nous」なので、「私達」が意味上の主語だとわかります。この動詞は、
se relever de
という使い方をしていますが、辞書で relever を引いて再帰代名詞と一緒に使う用法を探しても、ぴったりくる意味は記載されていません。それもそのはず、古典的な文学作品を読む場合に定評のあるリトレ(Émile Littré)の辞典で relever を引くと、一番最後(45 番目)の意味に「おそらくパスカルにしか存在しない用法(emploi qui n’est peut-être que dans Pascal)」として、この例文が記載されています。
こうした場合は、なるべく relever を原義(語源的な元の意味)に近づけて推測するしかありません。もともと接頭語 re- は「再び」の意味で、これを省いた lever は「(横になっていたもの・寝ていたものを)起こす、持ち上げる」という意味の他動詞。 se relever de ~で「~から再び自分を起こす」が原義ですが、この文脈に置きなおしてみると、「~を拠り所として再びそこから身を立てる」「~に立脚する」くらいの意味で使っていると推測されます。
「là」は「そこ」という場所を表す言葉ですが、ここでは内容的には前の文の「la pensée」を指すと取れます。 ここまでで、「そこにこそ、私達は立脚する必要がある」となります。 ⇒ 余談 2
ここの「et non de l’espace et de la durée」は、「non」使わずに書き換えると、次のようになります。
et ce n’est pas de l’espace et de la durée
(空間と時間にではない)
さらに、前に出てきた「qu’il faut nous relever」も補うと、
et ce n’est pas de l’espace et de la durée qu’il faut nous relever
(私達が立脚する必要があるのは、空間と時間にではない)
となります。これは、「ce n’est pas ~ que… (…なのは~ではない)」という、強調構文の否定です。
que nous ne saurions remplir
que は関係代名詞ですが、前にコンマがあります。英語では、
関係代名詞の前にコンマがなければ前に掛けて訳す(限定的用法)
前にコンマがあれば訳し下ろす(非限定的用法)
と習ったかもしれませんが、フランス語の場合は(おそらく英語以上に)関係代名詞の前のコンマの有無は、あまり重要ではありません。内容的に変でなければ、コンマがあっても前の先行詞に掛けて訳して構いません。
先行詞は l’espace と la durée の両方です。後ろの「remplir(満たす)」が他動詞で、その直接目的(OD)が先行詞になっているために、関係代名詞 que が使われています。つまり、ここは次の文がベースになっています。
Nous ne saurions remplir l’espace et la durée.
(私達は空間と時間を満たすことはできないだろう)