マイナンバーカードのトラブルが相次いで発覚する中、カードを返納する人が増えている。交流サイト(SNS)では「返納運動」が盛り上がる。政府はカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けるものの、個人情報の流出などを防ぐことができない政府への不信感が、返納に結び付いている形だ。(嶋村光希子、山口登史)
◆「情報管理ずさん」「今はすっきり」
「いろいろな個人情報が次々とひも付けられて、国に全て把握されるようでおかしいと思った」
6月下旬にマイナカードを返納した千葉県佐倉市の女性(74)は語る。市役所に提出した返納の理由には「個人情報の管理がずさん。情報漏えいの危険が大きい。今までほとんど使用したことがない」などと書いた。
カードは身分証明として使えるが、運転免許証や健康保険証で代用でき、高齢の母親とともに返納することにした。「今はすっきりした気持ち。トラブルが続いても政府は責任を取らず、庶民の気持ちを無視している」と憤る。
本紙「ニュースあなた発」のLINEで情報提供を呼び掛けたところ、女性が情報を寄せた。女性のほかに、近く返納を予定しているという男性(60)からは「(マイナカードに)反対票を投じる意思表示だ」との声もあった。
◆政府関係者「直近の返納数は増えている」
総務省の担当者は3月29日の参院地方創生・デジタル特別委員会で、返納を含め所有者の希望で失効したマイナカードの枚数を約42万枚(3月3日時点)と答えた。直近の返納数については「把握していない」と説明する。
ただ、6月中旬ごろから連日、ツイッター上で投稿数が多い言葉として、「マイナンバーカード返納運動」が上位に入る。5月以降に発覚した相次ぐトラブルが影響しており、政府関係者は「直近の返納数は増えている」とみる。
返納は住民票がある自治体で受け付け、規定の書類に住所や氏名、返納理由などを記入してカードとともに提出する。返納しても改めて取得することができる。
松本剛明総務相は6月27日の閣議後会見で、カードの返納者について「返納は本人の意思によって可能なので、コメントしない」と述べた。
マイナンバーカード 国内に住む全ての人に割り当てた12桁のマイナンバー(個人番号)や氏名、顔写真などを載せたICチップ内蔵のカード。身分証明や、オンラインで行政手続きをする際の本人確認などに使う。政府は用途の拡大を進め、2024年秋に現行の健康保険証を廃止してマイナカードに一本化するほか、24年度末までに運転免許証の機能も組み込む予定。6月18日時点の交付枚数は9233万枚で、人口に対する交付率は約73%。