「蚊柱(か ばしら)」とは?この「蚊(か)」は、人の皮膚に停まって「生き血を吸う」「蚊(か)」ではない様である
「夕立の来て蚊柱を崩しけり — 正岡子規」
見た目はそっくりの「蚊」と「ユスリカ」の違いは?
主に発生する場所と時期。
パッと見分けがつきづらい、蚊とユスリカ。蚊の中でも特にアカイエカとは見た目がそっくりです。名前に“アカ”が入るものの、体色は茶褐色や灰褐色。種類によって多少異なりますが、ユスリカも似たような色をしています。
そんな2種類の虫の最大とも言える違いは、吸血するかしないかにあるでしょう。蚊の雌が主に産卵期に吸血するのに対し、ユスリカの成虫は雄も雌も血を吸いません。それどころか、口器が退化しているために、ほとんどの種類のユスリカはエサを食べられず、わずか数日で命を落としてしまいます。ハエ目のユスリカ科に属するユスリカは、ハエ目のカ科に属する蚊とは異なる別の虫なのです。よく蚊と間違えられて叩かれることがありますが、蚊のように鱗粉(黒っぽい粉)が手のひらにつくことはありません。
よく観察すれば、とまり方で見分けることができます。後脚が長く、これを上にあげて静止するのがアカイエカ。前脚が長く、これを前に伸ばして静止するのがユスリカ。また、街路灯や室内の照明にたかっていたら、光に集まる習性があるユスリカの可能性が高いです。
ユスリカの主な生息地は湖や河川の近く。この他、公園や学校、飲食店の前や一般家庭の玄関先など色々な場所で見られます。成虫の発生時期は初夏から秋の終わり頃まで。夕暮れ時などに、小さな虫の大群「蚊柱」を見たことがある方も少なくないでしょう。ちょうど人の頭の上あたりにできることが多いので、一部では「頭虫(あたまむし)」や「脳食い虫」なんて呼ばれることもあります。
そもそも「蚊柱(かばしら)」ができるのは、なぜ?
蚊柱は数十~数百匹ものユスリカで構成されていますが、そのほとんどは雄(オス)のみであることをご存知ですか。雌(メス)はいたとしても1匹から多くても数匹しかいません。
1匹では些細な羽音も、数百集まれば結構な音のボリュームに。雄は集まってそれぞれ羽音を鳴らし、基本的に単独行動する傾向にある雌を呼び寄せるべく、自分たちの存在をアピールしています。そう、ユスリカにとって蚊柱は大切な“出逢いの場”なのです。
繁殖期になると雌はたった1匹で蚊柱の中に飛び込み、相手を見つけて交尾し、産卵します。蚊柱を見つけさえすれば、ユスリカの雌は圧倒的に有利な状況で、運命の相手と結ばれるというワケです。
ユスリカは通常、卵塊(らんかい)と呼ばれるかたまりの状態で水中に産み落とします。その形は、球状だったり紐状だったり様々。また、種類によって卵数も異なります。例えば、セスジユスリカが一度に産むのは500個程度、オオユスリカは約2,000個にも及ぶようです。他のハエ目と同様に卵から幼虫となり、蛹(サナギ)を経て成虫になります。ちなみに蛹の期間は、数時間から数日程度。その後、成虫になってもわずか数日しか生きられません。
うっとうしく感じる蚊柱ですが、儚い命を繋ぐために奮闘するユスリカの雄の集合体と捉えると、少し不快感が和らぐ方もいるのではないでしょうか。しかし、残念ながら、無害と言い切れない一面もユスリカは持っています。
刺さないユスリカが持つ厄介な一面とは?
大量発生する「びわこ虫」も実はユスリカだった?
蚊のように人間の肌を刺して、吸血することはないものの、人間にとって害がないとは言いきれません。ときには工場の異物混入の原因になったり、アレルゲンとなる死骸やその粉末を吸入してしまった場合には、ユスリカ喘息を引き起こす危険性があったり…。厄介な一面も持っています。また、洗濯物について潰れてしまうと汚れの原因にもなる迷惑な虫です。
近年、日本最大の面積を誇る琵琶湖の周辺に大量発生して問題になる「びわこ虫」の正体も、実はユスリカ類。体長1cmを超えるオオユスリカが大繁殖して度々ニュースでも取り上げられます。近くにお住いの方は「またこの季節がやってきたか…」と諦めている場合もあるかもしれません。年によって、大量発生したり通年に比べてそれほどでもなかったり、発生量には程度の差が生じますが、もはや“風物詩”化しているといっても過言ではないでしょう。
大量発生の要因の1つとして考えられるのが、湖や河など水域の肥料分の濃度上昇に伴う、プランクトンの増殖。それによって生態系がバランスを崩してしまい、ユスリカの繁殖にも影響を与えることがあるようです。
ユスリカの幼虫は、釣り好きには身近な、あの赤い虫。
人間の生活に役立つ一面も。
「頭虫」や「脳食い虫」、「びわこ虫」といった別名を持つユスリカですが、幼虫のときは「赤虫(アカムシ)」または「アカボウフラ」と呼ばれる種類もいます。ちなみに幼虫の体色が赤いのは、人の血液中にも含まれるヘモグロビンを持っているためです。
オオユスリカやアカムシユスリカなどの赤い幼虫は魚類のエサとして多く使われるので、釣り好きの方や熱帯魚を飼っている方にとっては、身近な存在ではないでしょうか。ユスリカの幼虫や蛹をエサにしている魚種は幅広く、飼料として貢献する役割も果たしています。
また、ユスリカの幼虫である赤虫は、水底泥の有機物を多量に食べて成虫になり、 水域外へ出るため、水中有機物を持ち出すことになり、「水域の浄化者」として水質浄化の役割に一役かっています。水質や土壌の状態を良質に保つためには欠かせない虫であることもまた事実です。
このように、幼虫時代はある意味では“益虫”としての可能性を秘めているユスリカ。成虫になると、途端に“迷惑行為“を働くようになる訳ですが、わずか数日の命だからと諦めて放任するか、害があるからと退治するか…判断に迷うところ。ユスリカの良い面と悪い面を知ることは、あなたの判断材料になるかもしれません。厄介な虫と一言で片づけられない一面も併せ持っている、奥深く不思議な虫「ユスリカ」についてご紹介しました。
https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/summershower20230718/
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