ー咬合と歯周疾患ーby東邦歯科診療所・・・「Dr.ダリル・ビーチの70年前の提言」 | きたざわ歯科 かみあわせ研究所
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ー咬合と歯周疾患ーby東邦歯科診療所・・・「Dr.ダリル・ビーチの70年前の提言」


 開業医の立場から過去50年の日本の歯周治療についての変遷(流行)を顧みると、日本の下顎運動のパイオニアである東京医科歯科大学教授故石原寿郎先生が末次恒夫先生、長谷川成男先生、斎藤滋先生の連名で書かれた雑誌の掲載文の中で「Gysi 下顎運動理論の意義」のタイトルで、「下顎運動は補綴学のみならず、歯学の全領域における重要な研究課題で、これは歯槽膿漏症治療法としての咬合調整がHanau咬合器によって理論づけられているという事実をみても明かであろう。・・・」と述べられているように、1930年代には歯周病の原因は咬合不全にあると思われていた。さらに、米国からナソロジーの考えにもとづく咬合を重視した解釈が一時代をなした。すなわち歯周疾患の原因の多くは咬合に由来するものとされ、X線による歯槽骨吸収像に対しても全ての咬合にのみ焦点を絞った読影がなされて、咬合を抜きにした歯周疾患の治療方針は問題にされなかったのである。ところが、基礎研究の進展に伴ない、プラーク・コントロールが歯周疾患治療の決め手として台頭し、脚光を浴びるようになると、それまでの咬合を中心とする考え方は一掃されてしまい、一変して歯周疾患と咬合はまったく無関係のように扱われているのが実状である。

 私はここで歯周疾患に対するプラーク・コントロールの重要性を軽視するものではないが、同一疾患に対する治療方針が数年たらずの間にこれほど変貌をとげたことに驚きを感ずるとともに、割り切れない思いがする。歴史的にみて、咬合の問題にしろ、プラーク・コントロールにしろ突然現われた話しではなかったのである。思うに、私が尊敬しているDr.ダリル・ビーチが70年前に日本の歯科医師に提唱した「歯科医療の4つの治療目的」である、

1.口腔衛生の確立と維持(プラーク・フリーの口腔環境)

2.組織抵抗の増強または維持(ホメオスタシス効果)

3.好ましい口腔内の力関係の確立と維持(正しい咬合関係の確立)

4.日常他の人に見える口腔範囲の自然な外観の創造または維持(審美歯科)

は、表現の違いはあるが、今日的な立場からみても歯科治療における原則にほかならない。Dr.ビーチがあらゆる場所、機会をとらえこれら4つの目的を具現化するには臨床の場でどのように具体化させるかを教示して来たにもかかわらず、日本の開業医がその理念を真に理解するまで、めまぐるしく廻り道をしていたのは何故だろうか。

 最近の咬合を軽視する考え方の論拠となるものは、咬合性外傷が歯肉の炎症、歯周ポケット形成の直接の原因とはならず、たとえ外傷性咬合によって歯根膜の拡大が認められ、歯槽骨の吸収があろうとも病的盲嚢が存在しなければ歯周病に罹患しているとはいえないとするところにあるようだ。一方患者の立場からすると、たとえ病的盲嚢が存在しなくとも歯槽骨の支持を失いその歯で十分に嚙むことができず、食物を選択して食せざるを得ない状態では咀嚼器官として満足に役割を果たしているとは言えない。そもそも歯牙の動揺を気にしながらの食事では不自然であろう。実際の臨床ではよほど口腔内環境が良好でない限り、長期にわたる外傷性咬合があるにもかかわらず病的盲嚢が存在しない例は稀有である。

 臨床家が歯周疾患において対症療法のみに専念し、その原因(プラーク)と結果(歯周疾患)を患者に正しく知らせないことは大きな問題であるが、一方術者として当然なすべき対症療法を行なわず、症状に対し適切な処置がなされなかったならば患者との信頼関係は得られないだろう。咬合の観点から見て、適切な対症療法を行なうためには咬合に対する正しい知識が前提条件であり、咬合を抜きにして歯科の最終目的である咀嚼器官の回復は期待できないのではなかろうか。例えが悪いが、キュレットの使い方も不満足なドクターが流行に先んじてプラーク・コントロールや食餌療法のみを患者に強要することは対症療法のみに奔走していた過去の臨床と逆の意味で片手落ちになっているように思われる。

 初期治療としてのプラーク・コントロールとフィジオ・テラピの励行によって歯肉の形態、色調、硬さなどが外見上健康であるように見える症例で、症状がいまひとつ臨床家にとって満足のいかない場合がある。このことはプラーク・コントロールやフィジオ・テラピのみでは治療に限界があり、スケーリング、ルート・プレーニングは勿論のこと時には外科処置と、的確な咬合の改善が要求されることがあることを教えている。外傷性咬合は歯周疾患の直接の原因ではないとしても、それを放置することにより病変は進行し、憎悪することは日常の臨床で多く認められるところである。咬合の改善には口腔全体を修復物によって、リコンストラクションするものから1歯のみの咬合調整で完了するものまで様々なケースがあるが、たとえ1歯のみの外傷性咬合であってもやがて咬合全体のバランスを崩す引き金となる場合があり、咬合の診査、診断に対しては細心の注意と咬合に関する知識が要求される。