米中はケンカしているふりをしているのかもしれない?!『トランプ関税は中国にとって好機となる:アメリカの超大国から退くことによって中国の信望が高まる』「古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ」のご紹介・・・
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2025年04月15日
トランプ関税は中国にとって好機となる:アメリカの超大国から退くことによって中国の信望が高まる
古村治彦です。
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トランプ関税は迷走している。90日間の実施延期が発表されたり、対中ではスマートフォンや周辺機器への課税が例外とされたりで、「アメリカは強気で始めたが、米国債の弱点もあり、いつか後退するぞ」という考えが出てきつつある。そのために株式市場は落ち着き、株価は上昇している。トランプ関税の主眼は、アメリカの貿易赤字を解消することであり、アメリカの製造業を復活させることだ。そして、アメリカ製品を売るためにドル安に誘導することだ。
アメリカの最大の貿易赤字を生み出している国は中国である。アメリカの対中貿易赤字は約3000億ドルだ。対日赤字は約680億ドルだ。日本はそこまで大きくない。1000億ドルを超えているのは中国、メキシコ、ヴェトナムだ。アメリカはスマートフォンや付属品、周辺機器を中国で生産している。そして、中国はアメリカ国債の世界第2位の保有国だ。これらの点はアメリカにとって中国に対峙する際の弱点となる。中国はアメリカに対して簡単に屈服することはないし、そんな必要もない。中国はアメリカの属国ではない。そこは1980年代の日米貿易摩擦の際の日本との最大の違いだ。
更に言えば、アメリカが世界唯一の超大国として、強いドルを背景にして、世界中の産品を買うことで、外国を経済成長させ、その儲かった分でアメリカ国債を買わせて、ドルをアメリカ国内に還流させ、アメリカ国内の生活を豊かにする(借金によって)というスキームは終わりを迎えようとしている。他人の借金で生きるというアメリカ人の生活をトランプは変革させようとしている(彼個人は汗水たらして働くなんてできないだろうが)。
アメリカが世界覇権国の地位から退くことによって(必然的にそのための乱暴なやり方が進められることで)、世界各国の中国に対する信望が高まる。少なくとも「アメリカよりはだいぶまし」という状況になる。そうなれば、相対的に中国の国際的な地位は更に高まる。日本は、アメリカ一辺倒の対外政策を選択し続けることは不可能だ。やはり中国や韓国と言った東アジアの周辺国との関係を改善し、アメリカの世界覇権国の地位喪失後の世界に備える必要がある。
トランプ政権によって、世界の構造の大変化は進められることになる。日本はその大変化に備えねばならない。
(貼り付けはじめ)
トランプ関税は習近平中国国家主席への贈り物だ(Trump’s Tariffs Are a Gift to Xi)
-中国への高額な関税にもかかわらず、アメリカ主導の経済のジェットコースターは北京にとって有利に働く可能性がある。
ハワード・W・フレンチ筆
2025年4月10日
『フォーリン・ポリシー』誌
2012年に中国の指導者である習近平が権力の座に就いて間もなく、数十年にわたる低摩擦外交(low-friction diplomacy)と世界屈指の経済成長(world-beating economic growth)によって築き上げてきた中国の優位性を、彼がいかに容易に浪費したかを見て、専門家たちたちは困惑し始めた。
習近平は統治開始初期、南シナ海全域の領有権を主張する積極的な動きを強めた。中国はまた、新型空母をはじめとする軍事技術の導入を進め、軍の近代化(the modernization of its armed forces)を加速させた。また、習近平は中国人民解放軍に対し、戦争に備えるだけでなく勝利も目指すよう熱心に訴え、近隣諸国に警鐘を鳴らした。
国内では、習近平は大規模な反汚職運動(anti-corruption drive)を開始したが、これはすぐに批判者や潜在的なライヴァルを威圧するためのキャンペーンと映った。間もなく、習政権はこの政治攻勢(political offensive)を拡大し、言論統制(constrain speech)を更に強化した。そして、急速な成長と革新で中国の台頭を支えてきたアリババなど、中国で最も成功した企業のトップたちを脅迫し、屈辱を与えた。
多くの中国人は、規律ある行政部門(a disciplined executive)への権力の集中(the concentration of power)は、民主政治体制の喧騒と混沌(the palaver and chaos)の中では不可能な方法で物事を成し遂げるという、お決まりの議論に頼って権威主義(authoritarianism)を正当化した。長年、私の授業に出席する中国人の大学院生たちは、この制度上の優位性(systemic advantage)を誇っていたが、習近平による弾圧の息苦しい雰囲気と、それに伴う憂慮すべき経済減速(the alarming economic slowdown)によって、その主張は終焉を迎えた。
突然、会話は政治理論家たちが「悪帝」問題(the “bad emperor” problem)と呼ぶものへと移った。新世代の若者たちは、ほぼ確実にチャンスが巡ってきた時代の喪失を嘆き、権威主義体制下での生活を単なる運の問題と捉え始めた。彼らは、一見すると啓蒙的な独裁者(a seemingly enlightened dictator)が、一瞬にして軽率で無知な暴君(a rash and benighted despot)に取って代わられる可能性があることに気づいたのである。この振り子の揺れ(pendulum swing)を経験した人々にとって、権威主義には決定的な欠点があった。政府を投票で追放できる民主政体とは異なり、国民には、不運を耐えてより良い後継者を期待する以外に頼る手段がないのだ。
しかし、これは権威主義に固有の問題だけではない。近年、世界最古かつ最強の民主政体国家が今や「悪い皇帝」のジレンマに直面していることが、ますます明らかになっている。
アメリカが誇る牽制と均衡のシステム(the United States’ vaunted system of checks and balances)は、ドナルド・トランプ米大統領の権力を抑制する上でほとんど無力であることを毎週のように露呈している。『フィナンシャル・タイムズ』紙のあるコラムニストは最近次のように書いている。トランプ政権は「アメリカ共和国とアメリカが築き上げた世界秩序に対する包括的な攻撃を行っている。国内では、国家(the state)、法の支配(the rule of law)、立法府の役割(the role of the legislature)、裁判所の役割(the role of the courts)、科学へのコ関与(the commitment to science)、そして大学の独立性(the independence of the universities)が攻撃されている。今、彼は自由主義的な国際秩序を破壊している」。
再選された民主的な指導者のほとんどが任期制限(term limits)に縛られていると感じている一方で、トランプは2期目には更に無謀な行動を取り、憲法で定められた8年の任期制限を超えて権力を拡大する懸念を繰り返し提起している。
皮肉なことに、トランプ大統領の最も無謀な行動のいくつかは、中国に集中している。水曜日、トランプ大統領は中国を除くほぼ全ての国に対する恣意的で不合理な高関税の課税を停止した。トランプ大統領自身は気づいていないかもしれないが、145%にまで引き上げられた対中関税の劇的なエスカレーションは、習近平国家主席への贈り物となる可能性が高い。
確かに、北京は短期的には、そしておそらく長期的にも困難に直面するだろう。しかし、トランプ大統領の行動は、習近平国家主席自身の欠点から中国国民の目を逸らさせ、自国の政治体制の優位性、そして中国を抑え込もうとするワシントンの悪意ある企みに関する、長年にわたる北京のプロパガンダに力を与えることになる。
世界全体にとって、中国は今や、安定と現状維持を志向する国際秩序において、より穏健な勢力として映っている(To the world at large, China now looks like a more moderate force in the international order oriented toward stability and the status quo)。もし、ある国家がどの超大国と手を組むか選択しなければならない場合、中国は好ましい選択肢として浮かび上がってくるかもしれない。
トランプ大統領の北京に対する極端な措置は、中国と通常は不信感を抱く隣国である日本と韓国、そして中国とヨーロッパの間に和解の道(avenues for rapprochement)を開いた。株価と債券市場の低迷の中で、トランプ大統領が突如、自らの誇る取引締結能力を証明しなければならなくなったことで、東京とソウルのトランプ大統領政権に対する交渉力も強化されただろう。これは、無謀な経済戦争(a reckless economic war)を仕掛け、他の指導者たちが自分の尻にキスしたがっていると豪語するほど愚かで権力に酔った大統領を抑制できなかったことに対する、ワシントンが払うであろう戦術的な代償である。
なぜトランプ大統領は、このような行動に価値があると考えているのだろうか? コメンテイターたちが頻繁に指摘するように、トランプ大統領の世界観の多くは、アメリカの産業的優位性の時代(the waning era of U.S. industrial preeminence)が衰退しつつあった、1970年代と1980年代に形成された。当時、トランプ大統領はまず日本を、そして次に中国を、アメリカの雇用、生産、そしてアイデアを「盗んでいる(stealing)」と非難した。トランプにとって、国家の階層構造の頂点に立つワシントンの地位は、確かにノスタルジーにとらわれているが、同時に生得権にもとづいているようだ。そして、関税によって他国を罰することで、アメリカから奪ったはずのものを返還できると考えているようだ。
これは経済学の基礎だけでなく、世界史についても大きな誤解だ。中国は確かに、近年の急成長の中で、高速鉄道の技術から戦闘機の設計に至るまで、海外から知的財産を盗み、競争から自国経済を守る方法を編み出してきたと考えられる。しかし、トランプは、19世紀のアメリカを含め、近代以降、新興国が同様のことを行ってきたことに気づいていないようだ。
しかし、自動車、輸送、再生可能エネルギー、ロボット工学における中国のリーダーシップ、そして人工知能や宇宙探査におけるアメリカとの熾烈な競争は、窃盗だけで片付けられるものではない。トランプが理解していないのは、中国の功績の大部分は、国民の勤勉さと犠牲、そして継続的かつ意図的な国家改革によってもたらされてきたということだ。産業界においては、バイオメディカルやロボット工学といった最先端分野を特定し、多額の投資を行ってきた。そして、それは高等教育の改善とより広範な教育機会の提供に向けた、同様に協調的な取り組みによって支えられてきた。
悪い皇帝は自信過剰(self-sure)で衝動的(impulsive)なだけではない。彼らはまた、情報に疎い傾向がある。それは、彼らが自らの政党を完全に服従させ、イエスマンに取り囲まれるまでに、自分たちの意見に反する情報に触れることはほとんどなくなるからだ。
トランプは、自身の無敵感(invincibility)とアメリカ合衆国の無敵感を混同している。国内で誰も彼に抵抗できなかったため、今では世界で誰も彼に抵抗できないと考えている。たとえ政権のメンバーが中国について人種差別的な軽蔑的な発言をしても、だ。J・D・ヴァンス副大統領は先週、アメリカ人は「中国の農民(Chinese peasants)」から借りるべきではないと述べた。日曜日には、ハワード・ラトニック商務長官が、世界的なスマートフォン革命を可能にした中国の工場を、大量の労働者が「小さなネジを締める([screw] in little screws)」だけの作業場だと一蹴した。
一方、スコット・ベセント米財務長官は今週、中国のビジネスモデルは破綻しており、アメリカ市場なしでは「生き残れない(can’t survive)」と述べた。(中国の対米輸出が世界の輸出に占める割合が、1990年代後半の42%という高水準から現在では約13%へと着実に減少していることは考慮に入れていない。)ベセントは、ワシントンの指示に北京が従うような世界を思い描いている。彼は次のように述べている。「バランスを取り戻せ。消費を増やし、生産を減らす。私たちは消費を減らし、生産を増やす。私たちは競争条件を大幅に平等にする」。
トランプの顧問の中で最も冷静な人物としばしば評される人物によるこの傲慢な発言は、そのナイーヴさに驚かされる。これは、1985年のプラザ合意(the 1985 Plaza Accord)のような、アメリカの全能の過去に対するトランプのノスタルジーを反映している。プラザ合意は、西ドイツや当時非常に競争力があった日本とのアメリカの貿易赤字を削減するために、世界の主要通貨を再調整した、一見すると一筆書き(the stroke of a pen)のような合意だった。
しかし、経済が減速し、人口が減少し始めた中国でさえ、1980年代の日本とは全く異なる。当時の日本ははるかに小さな国で、アメリカとの貿易に依存し、安全保障もアメリカに頼っていた。中国の人口は日本の約11倍であるだけでなく、わずか1世代余りで、ほとんどの国にとって主要な貿易相手国となり、世界銀行よりも大きな資金源となり、そして一流の軍事力を持つに至った。
中国外務省は最近の声明で次のように述べている。「中国は古代文明(an ancient civilization)を有し、礼儀正しさと正義の国である。私たちは問題を起こさず、また問題に怯むこともない。中国に対して圧力をかけたり脅迫したりすることは、正しい対処法ではない。中国はこれまで、そして今後も、自国の主権、安全保障、そして発展の利益を守るために断固たる措置を講じていく」。
レトリックはさておき、北京のこの冷静な発言は基本的に正しい。アメリカは関税を根拠に中国を威嚇することはできないだろうし、悪しき工程の大統領が自らの力と国家の能力を誇張することによっても中国を威嚇することはできないだろう。自国の弱点に目を向けなければならないのであって、決して戻ってこない過去に対する見当違いのノスタルジーではなく、未来に向けた前向きで要求の高いアジェンダが必要だ。
※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり特派員を務めた。最新作に『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ブルースカイ・アカウント: @hofrenchbluesky.social、 Xアカウント:@hofrench
(貼り付け終わり)
(終わり)
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』
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