❹『生体は人体は、『機械論(きかいろん)』だけでは語れない!』❹「第4章 科学者は、なぜ捏造(ねつぞう)するのか」「福岡伸一動的平衡3チャンスは準備された心にのみ降り立つ」を読む
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「福岡伸一動的平衡3
チャンスは
準備された心にのみ降り立つ」を読む
第4章
科学者は、なぜ捏造するのか
STAP細胞騒動を振り返る
科学上の発見ということを超えて、
社会的な流行現象にまでなったSTAP細胞。
当時、あれほどにまでメディアが過熱して報道し、
注目の的になったのは、なんといっても、
STAP細胞の発見者・小保方晴子さんが、
白衣のかわりに割烹着をまとい、
研究室の壁をパステル色に染めていたという、
まだ駆け出しの女性研究者だったことによる。
とはいえ、彼女の個人的な人となりばかりが先行して、
中学時代の作文が発表されたり、
身につけている指輪の値段が報道されたりというのは、
どう考えても行き過ぎである。
理系女子たちの応援歌になることは
もちろん好ましいことだが、
若い女性だということだけでメディアが興味本位に取りあげるのだ
とすれば、それが逆に女性差別である。
iPS細胞の作製が初めて登場したときも、
革新的な発見としてセンセーショナルに報道されたが、
発見者である高橋和利さんと山中伸弥さんの
個人的なあれこれが取りあげられることは、
少なくとも発見当初はなかったはずである(
彼らの人物像がクローズアップされたのは、
山中さんがノーベル賞を受賞したあとのこと)。
だから、小保方さんのことも、
もし人物伝として取りあげるのであれば、
彼女の研究が第三者の検証によって裏付けられてからでも
決して遅くはなかったはずだ。
我々が、これほど前のめりの勢いで、
この科学ニュースに接することができてしまったのは、
なんといっても、
先行するiPS細胞の華々しい展開と成功によって、
ある意味「予習」ができていたから、ということはいえるかもしれない。
もう一度復習してみよう。
私たちの身体は約三七兆個の細胞から構成されているが、
そのほとんどは役割が決定づけられた細胞、つまり分化細胞である。
分化細胞は、筋肉なら筋肉細胞として、
脳なら神経細胞として、形も違えば、働きも異なる。
どの分化細胞も、もとはといえば精子と卵子が合体してできた受精卵が
細胞分裂をしたことによってできてきた細胞である。
つまり細胞分裂のごく初期の段階では、
将来、どんなものにでも分化できる潜在能力を秘めつつ、
まだ何ものにもなりきれていない細胞だった。
このような細胞を我々は万能細胞と呼んでいる。
もう少し正確にいえば、
ほんとうに何でもなりうる万能細胞は受精卵だけであり、
そこから少し先に進んだ段階の細胞は、
多彩な分化状態になりうる細胞という意味で、
多分化能幹細胞と呼ぶ。
多分化能幹細胞はしかし、万能細胞ではない。
多分化能幹細胞一粒は、神経細胞や筋肉細胞になることはできても、
受精卵のようにまるまるひとつの個体を作り出すことはできない。
さて、STAP細胞が登場するまでは、
多分化能幹細胞の代表選手は、
ES細胞とiPS細胞だった。
ES細胞は、受精卵が細胞分裂を進め、
数百の細胞群からなる胞胚という状態に至ったとき、
その細胞群をバラバラにして、その中から取り出された。
ES細胞は、今後、いろいろな細胞になりうる可能性を秘めながら、
何ものにもならず、ただ、未分化状態のまま分裂だけを繰り返す細胞、
いうなれば永遠の自分探している細胞ということができる。
ES細胞に適切な情報(ホルモン、薬物、成育環境など)を与えることによって、
一定の分化状態へ導くことができる。
だからES細胞は再生医療のための切り札とされ注目されることになった。
マウスES細胞が作られて研究されたのち、
ヒトES細胞も作製された。
ES細胞を発見したエバンス博士はノーベル賞に輝いた。
ただし、ES細胞には大きな問題点が二つあった。
まずは受精卵(から出発した胞胚)を破壊することによって作られること。
これは受精卵を生命の出発点と見なす考え方に立てば、殺人行為になる。
つまり大きな生命倫理的な問題を孕む。
もうひとつは、あるES細胞から作られた分化細胞を、
もし治療に使うとすると、それは他人の臓器を移植することと同じ行為なので、
かならず拒否反応が起こることになる。
これを防ごうとすると、強力な免疫抑制剤を使うか、
あるいは自分自身の細胞からES細胞を作り出す必要がある。
が、自分自身はかつて受精卵から出発したわけだが、
今では分化が終了しているので、
ES細胞を取り出せる状態に逆戻りすることは不可能、
ということになる。
この問題点を鮮やかに打破したのが、iPS細胞だった。
いったんは分化してしまった身体の細胞、
たとえば皮膚の細胞を、もういちど未分化状態、
すなわち限りなくES細胞に近い状態に戻すことが可能だということが示されたのだ。
ただし、そのためには、
いくつかの外来遺伝子を、
特別な遺伝子工学的手法によって、
細胞の中に導入してやる必要がある。
つまり人工的に細胞を改変しなくてはならない。
これが細胞に悪影響を及ぼすのではないか、と
いう点が懸念された。
実際、がん化や遺伝子に問題が見出されるケースが存在する。
そんなところに、
ES細胞でもなく、
iPS細胞を作るような複雑な操作を施す必要もなく、
極めて簡単な方法で、多分化能幹細胞を作り出せる可能性が示されたのである。
それがSTAP細胞。
弱い酸性の溶液に細胞をつけるだけでよい、というのだ。
世界中が瞠目した。
STAP細胞への逆風
優れた可能性をもった多分化能幹細胞をごく簡単な方法で作り得た
――全世界が瞠目したSTAP細胞の発見をめぐる状況がにわかに揺らぎ始めた。
そもそも日本のメディアが連日報道したのは、
発見者の小保方晴子さんが若い理系女子だったからだ。
なんといっても最も権威ある科学専門誌『ネイチャー』に
二つの関連論文が同時に掲載されたこと
――つまり厳しい審査を経ているはずだということ、
そして共著者に
理化学研究――日本を代表する再生医療研究のメッカの錚々たるメンバー、
およびハーバード大学医学部
――いわずと知れた世界最高峰の研究機関の有名教授陣が名前を連ねたという事実も、
発見の信頼性に多大な後光効果をもたらしていたことは確かだった。
これまで再生医療の切り札として研究が先行していた
ES細胞やiPS細胞」(いわゆる万能細胞)の作製によるも
ずっと簡便(弱酸性溶液につけるだけ)なのにもかかわらず、
より受精卵に近い状態に初期化できている
(STAP細胞は、胎盤にもなりうるというデータが示されていた。
胎盤となる細胞は受精卵が分裂してまもなく作られる。
ES細胞やiPSm細胞はもっとあとのステージの状態なので、
逆戻りして胎盤になることはできない)。
ES細胞のように職胚を破壊する必要もなく、
iPS細胞のように外来遺伝子を導入する操作も必要ない。
ただストレスを与えるだけで、
細胞が本来的に持っていた潜在的な多分化能を惹起させうるという、
これまでの常識を覆す、意外すぎる実験結果だった。
私の周囲の幹細胞研究者にも聞いてみたが、
皆一様に大きなショックを受けていた。
それは正直なところ嫉妬に近い感情だったかもしれない。
しかしほどなくSTAP細胞に対して逆風が吹き始めた。
それはネット時代の科学研究のあり方を象徴するように、
ソーシャルメディアを通して表れた。
少し前であれば論文はすべて紙ベースの専門誌として公刊された。
もし反論や疑義があればこれまた紙ベースの論文の形で刊行されることになり、
議論はたいへん長い時間――場合によっては年単位――かかっていた。
ところが現在、多くの論文誌は紙ベースの刊行を残しつつ、
電子版としてネット上に公開されるようになった。
データ(グラフだけでなく、細胞の写真やDNA実験の画像など)も
すべてファイルとしてアップロードされる。
だから瞬時に世界中の研究者がそれを仔細に検討することができるようなり、
リアルタイムでレスポンスできるようになった。
意見や議論を持ち寄るサイトも立ち上がっている。
最初に、DNA実験の画像データの一部に、
切り貼りされた痕跡があると指摘された。
まもなくSTAP細胞が胎盤になりうることを示した
細胞発光のデータにも疑義が示されるようになり
(これは共同研究者の一人が、写真を取り違えたことによる単純ミスだと釈明した)、
またいったん分化した細胞が初期化されることを示すデータも、
当初考えられていたような免疫細胞のT細胞由来の分化細胞が由来ではないのではないか、
ということが遺伝子解析の結果から示唆されることになった
(T細胞であれば遺伝子再編成が起こり、
細胞が職化されても元にもどらないはずなのに、
再編成が見つからない)。
おまけに論文のテキストに、
他の論文からコピー・アンド・ペーストしたのではないか、
と疑われる箇所が出てきた。
その後、展開した大騒動については読者の記憶にも新しいところである。
結果的にSTAP細胞は幻に消えた。
誰もSTAP細胞の作製を再現することはできなかった。
ひとつ言えることがるとすれば、
iPS細胞作製の成功以来、生命科学がテクノロジーの走りすぎ、
「作ました、できました」という成果はもてはやされすぎる風潮がある。
今回の問題もその延長線上に起きたのは間違いない。
科学は本来、
もっとじっくり
「How(どのように生命現象が成り立っているのか)」と問うべきものだ。
STAP細胞の実在性に著者らが信念をもっていたのであれば、
論文を撤回すべきではなかった。
訂正や続報を行うばきだった。
論文を撤回したことによって、
故意のデータ操作・捏造など不正があったとみなされた。
不適切と不正の切り分け、
つまりどこまでが本当で、どこからが嘘なのか。
嘘にどこまで作為があるのか。
こうした点が明確にならないと、
科学界に広がった多大な混乱と浪費は回収できない。
どこにどのような問題があったのか
著者は最後まで明確に説明できなかった。
さらに言えば、問われるべきは著者の責任だけではない。
多くのメディアは、
当初、ネイチャー・理研・ハーバードといったオーラを与信として、
若き理系女子の偉業を翼賛・称揚する一方、
疑義が出てくると一転、手のひらを返した。
つまり研究内容に対して冷静に解読する自律性がなかった。
若手を独立研究ポジションに抜擢するのは推進されるべきだが、
研究者の基本姿勢や倫理観を育てる
科学教育のあり方は十分だったのかという論点は
十分に掘り下げられることがないままだった。
今回の事例は論文発表直後から、
世界中の研究者の集合知的なあら探しによって問題点があぶりだされた。
最高権威だったはずの『ネイチャー』の審査が機能せず、
草の根的なネット上の集合知が機能した。
ランディ・シェックマン(二〇一三年ノーベル医学・生理学賞)
が主張しているネット上のオープン・アクセス・ジャーナルが
はからずも実現したという点でも興味深い。
」
しかし・・・
①
②ハーバード大学に
「いいとこ」を横取りされた様だ・・・
https://www.youtube.com/shorts/i_cgnIwuTgM?feature=share
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